「ゲーム脳」徹底検証
すぐわかる「ゲーム脳」

※リンクに、森昭雄教授の講演記録(音声ファイル有)を追加しました。
2004年、鹿児島で行なわれた講演の記録で、
自閉症についての発言や、テトリスについての発言も聴くことができます。


NHK出版から2002年に発売された、
日本大学文理学部・森昭雄教授の著書『ゲーム脳の恐怖』。
「テレビゲームをやると、脳が認知症に似た状態になる」とあおり、
マスコミでも大きく取り上げられました。
しかし、よくよく内容を検証すると、疑問や問題の多い理論であることがわかります。
「ゲーム脳」理論の問題点を、短くまとめてみました。
山本弘氏・斎藤環氏へのインタビューでうかがった見解に加えて、
財団法人イメージ情報科学研究所が発行した
『ゲームソフトが人間に与える影響に関する調査報告書』、
パオロ・マッツァリーノ氏の著書『反社会学講座』、
さらに百科事典サイト『Wikipedia』を参考にしました。
(府元晶)

「ゲーム脳」とは何か?(ゲーム脳について詳細に書きました)
山本弘氏へのインタビュー
斎藤環氏へのインタビュー
『ゲームソフトが人間に与える影響に関する調査報告書』(PDFファイル)
Wikipedia


測定機器の問題

脳波を測定する機械が標準的なものではなく、
しかも脳波そのものが公開されていない。

森教授は一貫して、独自に開発した簡易脳波計を使っている。
だが脳波の実物を公開していないため、
これがどの程度信頼性のおける機械かがわからない。

この脳波計ではアルファ波とベータ波しか測定できず、
本当の異常脳波であるシータ波やデルタ波が測れない。

また、脳波の測りかたも正しくない。
特定部位の脳波を測るのに「双極誘導」を使うのはおかしいし、
双極誘導なのに「不関電極」があるのも意味不明。

さらに、電位変動がない部分(通常は耳たぶ)につけるはずの不関電極を、
前頭部の活動を拾うおでこにつけているのも間違いである。

さらに、頭皮の筋肉が出す電気信号が、ベータ波に似た波形を示すのだが、
森教授の脳波計ではそれを区別できない。
「お手玉をするとベータ波が上がる」と森教授は主張しているが、
これは筋肉の電気信号を拾っている可能性がある。

そもそも森教授は、この脳波計の開発者たちの脳波が「ゲーム脳」だったと称している。
もし教授が言うように、彼らの脳波が異常なものだとしたら、
彼らが開発した脳波計そのものが信頼できないのではないか。

脳波に対する研究者の知識の問題

「脳波が認知症患者に似ているから異常」とされるが、
単にアルファ波が強く出ているだけで、異常ではない。

「『ゲーム脳』の脳波は痴呆(認知症)の脳波に似ている」というのが
「ゲーム脳」理論の根幹だが、
これはテレビゲームに限らず、リラックスしている状態全般に起こる。
なぜならそれは“アルファ波が強く出ている状態”に過ぎないからである。

アルファ波は異常な脳波ではない。
アルファ波とベータ波の比率は、目を開けたり閉じたりするだけで変わる。

森教授はアルファ波を「高振幅徐波」と解説しているが、これは誤り。
「徐波」というのは異常な脳波のことで、アルファ波はこれに当たらない。

(森教授は講演で、「ゲーム脳はアルファ波が増えた状態ではなく、
ベータ波が減った状態」と説明していたようだが、それを裏づけるデータはないし、
だいいちベータ波が減った状態も異常ではない)

認知症の患者と同じ脳波パターンが出た人が、認知症の症状を示していないということは、
その人が認知症に近いわけではなくて、その脳波パターンが
認知症患者特有のものではないと考えるほうが常識的だろう。

テレビゲームと運動などとの比較の問題

テレビゲームをしている時の脳波と、運動時の脳波がまったく一緒なのに、
運動することだけを勧めている。

森教授の著書『ゲーム脳の恐怖』で示されたデータによると、
テレビゲームをやっているときの脳波パターンと、
運動をしているときの脳波パターンはまったく同じ。

にもかかわらず教授は、ゲームのほうはベータ波が減るから良くないと言い、
運動のほうは同じようにベータ波が減っているにもかかわらず、
あとからベータ波が増えるから良いと言っている。

さらに森教授は、ベータ波が上昇するゲームが存在することも認めているが、
それはストレスになるからやはり健康に良くないとしている。
データがどうであろうとも、「テレビゲームは駄目」という結論を変えようとしないのだ。

データ提示の問題

脳の状態が4タイプに分けて示されているが、主観だけで分けられており、
「被験者がゲームをやった時間の長さ」など具体的な数値は公開されていない。

脳の状態を4タイプに分けて示しているが、それぞれの特徴を述べる際、
数値的なデータは一切書かれておらず、
ただ「もの忘れが多い」「成績は普通以下」「集中力が低下している」などと
主観のみが書かれている。

記憶力や集中力、学業成績といった項目は簡単に数値化できるはずで、
それをあえて行なっておらず、あまつさえ被験者の人数すら公開されていないということは、
数値化すると自論に不都合なことが起こるからではないかと勘ぐられても仕方がないだろう。

仮にテレビゲーム歴と脳波パターンに関連性があるとしても、森教授の調査からは、
テレビゲームが脳波パターンに影響を及ぼすのか、
それとももともと「ゲーム脳」的な脳波パターンを示す人が
テレビゲームを好むようになるのか、因果関係を判断することもできない。

習熟度と脳波パターンの問題

「脳に良い」とされた作業も、繰り返して行なうと「ゲーム脳」と同じになる。

『ゲーム脳の恐怖』では、
「ゲーム脳の被験者が、新しいRPGを始めた場合には、ノーマル脳タイプの脳波を示した」
と書かれている。

テレビゲームでも、始めたばかりのときは前頭前野が活発に使われているということで、
つまり森教授の分類した脳波パターンは、正常か異常かというよりも、
単にゲームへの習熟度を示していると考えられる。

その証拠に、森教授が「ベータ波が上がる」としていた10円玉を立てる作業においても、
繰り返して行なうと「ゲーム脳」と同じ脳波パターンを示すようになり、
しかも森教授はこの現象について「慣れてしまったのかもしれません」と明記している。

テレビゲームに対する研究者の知識の問題

研究者に、テレビゲームについての知識がなく、
被験者がどのような作業を行なっていたか把握できていない。

森教授はテレビゲームに関する知識が皆無に等しい。
基本用語である「ロールプレイングゲーム」の定義を知らなかった。
また、教授は日本で3番めに売れているゲームである、
『ファイナルファンタジー』の名前や内容を一切知らなかった。

したがって森教授がテレビゲームのことを語るのは、
中日ドラゴンズを知らない人がプロ野球について語るに等しい。

テレビゲームには多様な種類があり、またひとつのゲームでも場面ごとに行なうことは変わる
(コンピュータ・プログラミングにも同じことがいえる)。
しかし森教授は被験者がどのような作業を行なっていたかを明示していない。

森教授が著書や講演、テレビ番組などで、脳の動きを表すとされる映像を示すことがあるが、
それらはせいぜい数秒程度のもので、
都合のいい部分だけを抜き出して公開している可能性を否定できない。

テレビゲーム以外の行動が「ゲーム脳」を起こす問題

そろばんや将棋、朗読など、「脳に良い」とされる作業でも、
「ゲーム脳」と同じような状態になる。

森教授自身が、テレビゲームのみならず、
コンピューター操作や将棋、携帯電話のメール作成などでも、
「ゲーム脳」になることを認めている。
こうなると「ゲーム脳」というネーミング自体が不適当と言わざるを得ない。

さらにその後、他の研究者によるさまざまな研究により、
そろばん・朗読・カードゲーム・テレビの視聴・大学生による英語学習・
音楽を聴く・肩たたきをしてもらう・座禅や精神集中などの行為でも
「ゲーム脳」に近い状態になることがわかっている。

「少年犯罪の増加」に関する問題

そもそも、少年による犯罪は増加していない。
少年による凶悪犯罪のピークは昭和35〜40年。

少年による犯罪が急激に増えているといったデータはない。

『反社会学講座』の著者、パオロ・マッツァリーノ氏によると、
少年による凶悪犯罪は平成2年から平成9年にかけて約2倍に増え、
その後は横ばい状態が続いているが、
昭和35年から40年には、さらにその3倍以上の件数があった。
少年自体の人口も当時のほうが多かったが、それでも現在の1.25倍程度に過ぎない。

ちなみに人口あたりの殺人加害者の数は、現在でも10代男性や20代男性より、
50代男性のほうが多い。

一方、問題とされ槍玉に挙がったゲームソフトの販売本数は、いずれも百万本を超える。
仮にこれらのゲームをプレーした人の1%が凶悪化するとしても、
全国で1万人以上の凶悪犯が生まれなければ計算が合わない。

「ゲーム脳」の改善法の問題

「ゲーム脳」は、「毎日5分ずつお手玉をすれば、2週間で改善する」とされている。
恐怖でも何でもない。

森教授は、テレビゲーム歴10年以上の大学生に、毎日5分間ずつお手玉をさせてみたところ、
2週間ほどで、前頭前野のベータ波の状態が回復したとしている。

「ゲーム脳」になっても、この程度の方法で改善できるのであれば、
“恐怖”でも何でもない。

『ゲーム脳の恐怖』には、「けれども、もしも子どもが
『1時間お手玉をするから、1時間テレビゲームをやってもいい?』と聞いてきても、
いいとはいえません」と書かれているが、例によって根拠はない。

習熟度の問題から考えれば、お手玉も慣れてしまえば
「ゲーム脳」と同じ脳波パターンになることが予測される。

『ゲーム脳の恐怖』で示されているのは、
お手玉に慣れていない人がお手玉をやったときの脳波パターンのみであり、
熟練者がお手玉をやっているときのデータは示されていない。

『ゲームソフトが人間に与える影響に関する調査報告書』では、以下のようにまとめられている。
「今の段階では、研究の蓄積とハードとその解釈への信憑性という基本的な問題に加え、
提示されていないデータなども多く、その結果についての結論は出せない段階である」

※これより外部リンク


「ゲーム脳」徹底検証シリーズ
※これより外部リンク tv-game.comトップページ
ゲーム脳がよくわかる書籍
若者論を疑え!(後藤和智)
ネット王子とケータイ姫(香山リカ・森健)
トンデモ本の世界T(と学会)
バカはなおせる(久保田競)
天才の創りかた(川島隆太)
議論のウソ(小笠原喜康)
狂気の偽装(岩波明)
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