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「ゲーム脳」徹底検証
斎藤環氏に聞く ゲーム脳の恐怖1

脳波の現物がないのもおかしい

斎藤 脳波計に関しても、この人の理屈はとにかくとんでもなくおかしい。
「シールドされていない場所でも脳波を記録できる簡易型の脳波計を開発しました」と書かれてますけど、いわゆる国際基準の10−20電極法を用いた正規の脳波計を、外で使う機会もあるわけですよ。脳死の判定なんかはそれでやるわけですからね。それに最近は、スポーツ時なんかの脳波測定用にコードレスの脳波計までちゃんとある。これだってシールドされていない場所で使うためにあるんです。

ノイズの混入を防ぐためには、シールドされていたほうが望ましいのは確かです。だけど、シールドされてなければ脳波がとれないっていうのは嘘です。
どうしても厳密にゲーム中の脳波を調べるんだったら、シールドされた部屋の中に学生を呼んできて、脳波室内でゲームさせればいいだけのことで、何も簡易脳波計を開発する必然性はないんですよ。そこに、「脳波計のプロモーションではないか」という疑惑を感じるんですよ。でもこんな脳波計は、もちろん医学的にはまったく使い物になりませんから。

それに、そもそも簡易脳波計は、パソコン用に既に存在しているんですよ。bk1にも書きましたけど、10万円も出せば買えるんです。まあこれだってオモチャという点では同じですけどね。だから「EMS-2000」なんて、わざわざ買う必要は全然ないんですね。この機械に特徴があるとすれば、機械が勝手にアルファとベータの比率を計算してくれる点だけです。

――つまり、最初から『ゲーム脳の恐怖』の理論を示すために、そういう機能をつけたと。

斎藤 そうです。あらかじめね。
この本には、脳波の本物は1回も出てきてないんですよ。脳波のことをこれだけ書いているのに、脳波の現物を1枚も出さないっていうのは、異常なことです。
ホントこの人、ちゃんとした脳波計で、1回も脳波とってないんじゃないかって感じがしますね。あのトンデモな珍マシンでとっただけとしか思えませんね、これはね。

――その機械でとったのを前提として、全部書いてますからね。

斎藤 でもね、普通は、いくら一般向けの本であっても、脳波の実物を出しますよ。きちんと国際基準にのっとった方法でとった、本物の脳波をね。本物の脳波上のデータと、この簡易脳波計の測定結果が一致することをまず示して、あとは手順を簡略化するために簡易脳波計を使うなら、まだいくぶんかは説得性があります。でもこのかたは、そういう学問的に当然の前提をぜんぶすっ飛ばしている。専門用語で言えば「信頼性」と「妥当性」を検証しつつ「標準化」するという手順がすべて欠けている。新しい測定法を提唱するためには、どれも絶対に欠かせない手続きなのに。そういう「常識」を知らなかっただけなのかもしれませんが、だとしたら、そんな無知な人に教えられる学生がかわいそうだ。

まあ確かにそれじゃ、素人にはわかりにくいかもしれないけど、だけど、それをまず示して、その後で、その脳波に対応する、この機械の結果っていうのを出さないとですね、手順としておかしいですよ。素人向けだからって、バカにしすぎですよ。


※例えば『発掘!あるある大事典』でも使われていた、脳力開発研究所のブレインビルダ。「EMS-2000」と価格がひとケタ違ううえに、シータ波も測定可能。日本大学の医学部や歯学部でも使われているそうだ。

引き続き、斎藤環氏へのインタビューをお届けする。
(3回連載の第2回。第1回はこちら

前頭前野しか測れない脳波計

斎藤 だいたい、この脳波測定器がアルファとベータしかわからないってのはおかしな話なんですよ。ほんとに脳波をちゃんと調べるんだったら、シータ波とデルタ波も計測できなきゃおかしい。もちろん鋭波や棘波などもね。

――そっちのほうがむしろ重要と。

斎藤 いま述べたような波形がもし出現したら、これはほぼ異常だと言っていいんですよ。こういう波形は、もし覚醒時であれば、出ただけで異常脳波なんですから。(※)

――あ、そうなんですか。

斎藤 ええ。それが出ていたら、だいたい異常脳波と言っていい。異常脳波が測れないマシンの存在自体が、最初から結論ありきで作られたことを示してますね。それから、脳波を計測する部位も、ずっとこの人、前頭前野、前頭前野って言ってますけど、前頭前野の脳波しかとってないじゃないですか。

――あ。

斎藤 おかしいでしょ、それは。前頭前野に異常があると言うためには、前頭葉、頭頂葉、側頭葉、後頭葉、全部とって、それで比較しなきゃ意味ないですよ。そういう比較をやってないでしょ、このかたは。

――そうですね、言われてみれば。

斎藤 そういった意味でほんとに異常な研究です。ここだけ取っても、いかにもおかしい。


※注:正常成人の場合、徐波は普通、睡眠時に発生する。ただし小児では、覚醒時でも徐波が検出される場合がある。(参考資料:マイクロソフト エンカルタ百科事典)

「双極誘導」と「単極誘導」

斎藤 もっと専門的な話をすると、この機械が「双極誘導」という方式を使うのはおかしいんです。双極誘導は、この本にも書いてあるように「二ヵ所の電位差」でしかないんですよ。
その部位での電気活動を調べるためだったら、「単極誘導」といってですね、一方は電位の変動が少ない所に基準を置いて、もう一方を活動している部位に置いて、その電位差の変動を記録する、こういう方法を使います。

双極誘導っていうのは「二ヵ所の電位差」でしかないので、極論するとその2か所がまったく同じ活動をしていたら、電位差はゼロになって、脳波は平坦脳波になっちゃう。そんなものを基準にするのはおかしいんです、明らかに。シンクロしていたら、電位差はありませんからね。

(次ページへ続く)

『ゲーム脳の恐怖』は間違いだらけ/「脳波」に関する初歩的な間違い
アルファ波は「徐波」ではない/イーオス社のプロモーション?
脳波の現物がないのもおかしい/前頭前野しか測れない脳波計

そもそもいったい何を測りたかったのか?/「不関電極」をおでこにつけるのも間違い
脳波を測るならちゃんとした脳波計で/正しい脳波の測りかた

こんな人に脳波のことを語ってほしくない/森昭雄氏の知識はシロウト以下
少年犯罪は増えてない/「ストレス」に関する間違い
「医学博士」は医者じゃない/「反射神経」に関する間違い/ゲーム業界にも後ろめたさがある?


「ゲーム脳」徹底検証シリーズ
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