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「ゲーム脳」徹底検証
日大医学部・泰羅助教授に聞く
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※泰羅教授の2009年時点での研究結果が、CESAの冊子「テレビゲームのちょっといいおはなし・6」に掲載されています。
※泰羅教授の2008年時点での見解が、CESAのインタビュー記事に掲載されています。
毎日新聞や週刊文春など、数多くのマスメディアで取り上げられ、現在ベストセラー街道まっしぐらの『ゲーム脳の恐怖』(森昭雄/NHK出版)。だがその内容については、批判する声も数多く聞かれる。
特に、著者が日本大学の医学部ではなく、文理学部の教授であることから、「著者は医学について門外漢なのではないか」という疑問の声が根強いようだ。
そこで、日本大学医学部・生理学教室の、泰羅雅登(たいら・まさと)助教授にお話をうかがった。泰羅氏は、森氏の主宰する「日本健康行動科学会」の、第1回学術大会で講演をされていて、森氏を昔からご存じということだ。
<取材・文 府元晶(ゲイムマン)>
――まず、この『ゲーム脳の恐怖』を読んでのご感想をおうかがいしたいのですが。
泰羅 難しいですね。本の内容に関しては、論文とは違いますからね。感想と言われても難しい。
研究というのは人それぞれ、独自のやりかたでやられるわけじゃないですか。だからその手法も人それぞれで、その結果に対してどういう解釈するかってのは、またそれぞれの研究者がやることなんですよね。
この本に関してみたら森先生独自のやりかたでやられて、その結果があるわけで、これは森先生しかやってないわけで、森先生がそういうふうに解釈された、ということですよね。
論文に対してなら、きちっとした批判はできますし、議論が交わせるわけですけど、この本は一般書であって、学術的なものではないですよね。そういうものに対しては特に、議論は難しいですよね。
――ただこの本は、世間的には「ゲームの悪影響を科学的に実証した本」というふうに受け取られているようですが。
泰羅 そう紹介したのは、マスコミじゃないですか。
――出版社の紹介文がそんな感じでした。(※注1)
泰羅 マスコミがそういう風に取り上げたんですよね。いちばん最初に取り上げたのは……、
――毎日新聞ですね。(※2002年7月8日夕刊)
泰羅 そうですね。それは、マスコミが取り上げてマスコミが作ったわけでしょ。
――では、論文としてこれを見たら、どうなりますか?
泰羅 論文の形態にはなってないですからね。論文の形態になってると、詳細なデータが出てきますからね。
――論文として考えるには、この本のデータは十分ではないということなんでしょうか?
泰羅 いや、それはわからないですよ。もっとデータを持っておられるのかもしれないですし。一般の記事にするときには、実験データは部分的にしか出しませんからね。
だから、この裏にはもっとデータがあるかもしれないし、これを見ただけでは、わからないですね。
――論文という形態をとらずに、いきなり本にして掲載したという点も、批判の対象になっていますが。
泰羅 それは結構あることじゃないですか? なかなか論文にならない研究というのは結構ありますし。
――現時点でも、この題材に関する論文はまだ出てないですか?
泰羅 論文は調べてないからわからないけど、学会では発表していますよ(※健康行動科学会で発表している)。
――先生は、「日本健康行動科学会」で講演をされたそうですが。
泰羅 森先生が作った学会ですね。第1回学術大会のシンポジウムに参加しました。
――第1回ということは、発足したばかりの頃ですか。
泰羅 いやいや、こないだ行われたばっかりですよ。(※注2)
――あ、そうなんですか?
泰羅 ええ。学会が今年できたんですよ。
――講演されたとき、会場に来られていた人数はどのくらいですか?
泰羅 100人近くは来てたんじゃないかな。テレビも入ってきていましたし。
注1:『ゲーム脳の恐怖』カバー折り返し部の文章
「子どもたち、若者たちに蔓延するテレビゲーム。著者は、脳への恐るべき影響を、脳波計測データを解析し、明らかにした。意欲、判断、情動抑制など、人間らしさを保つために重要な働きをする前頭前野が、ゲーム漬けで危機に瀕している。どうすれば回復させられるか。脳神経科学者からの警告!」
注2:2002年10月5日、6日に、日本大学文理学部百周年記念館で開催された。
――『ゲーム脳の恐怖』の内容を見ていきたいのですが、2章の前半に書かれている、前頭前野と、脳の各部分の役割、これは間違いはないですか?
泰羅 脳の前頭前野は、今いろんなところで取り上げられていますが、人を人たらしめるって言われている部分ですね。
――ここが、人の場合は特に発達しているということですか。
泰羅 そうですね。
――この本の中では、ゲームをやるときは前頭前野が働いていないと書かれているようですが。
泰羅 うーん、それはちょっと曲解ですね。
前頭前野が働かないゲームもあり、働くゲームもそりゃいっぱいある。一概には何とも言えないですね。
――この本の中で取り上げられているゲームというのは、アクション系のものが中心で、思考型のゲームについては、あまり書かれてないような感じがしたんですが、そういうゲームだとまた、変わってくるのでしょうか?
泰羅 うん、そりゃ、変わってくるでしょう。ロールプレイングゲームなら、画面を読まなきゃいけないですからね。
でも、注意しなければいけないのは、この本を批判するかたは、ロングターム(長期)の影響とショートターム(短期)の影響を混同してるんですよね。
ゲームをやるときには確かに、前頭葉が働くものもあるし、働かないものもある。それは確かだけど、長期的にどういう影響を及ぼすかなんてのは、それは別の研究で、全然わかんないわけですよ。森先生はそれを言おうとしているわけでしょう?
――もう少し長いスパンで、研究を重ねていく必要があるということですか。
泰羅 そうですね。……何を見るかでしょうね。ゲームがいい、悪いっていうときの基準は何かってことですよね。ゲームの直接的な影響なのか、他の要因も含めた長期的な影響なのか。その立場が違って議論したって、議論になりっこないですよね。
――こういうところがいい、悪いっていうのがかみあわないと。
泰羅 そう。だから、その議論はあんまり、生産性もないですよね。
――とはいえ、「テレビゲームが子どもたちの脳を壊す!」みたいに表紙で書かれていますと……。
泰羅 確かにすごくセンセーショナルですよね、こういう書きかたするとね。これはだから、マスコミがそういう風にしちゃったわけですよね。
――雑誌(『ゲーム批評』11月号)によると、『ゲーム脳の恐怖』っていうタイトルは森氏の発案で、出版社は違うタイトルにしたがったそうなんですが。果たして「ゲーム脳」といえるかどうか。内容を見ると、アニメとかホラー映画とか……。
泰羅 うん、なんかいろいろ書いてありますね。
――将棋も長くやり続けてるとうんぬんと書いてますね。(※注3)
泰羅 (笑)
――これを「ゲーム脳」と言い切ってしまうのはどうかと思うんですけど。
泰羅 だから要するに、こういう基準でもって分類したってだけの話でしょ。こういう装置を使ってこういう脳波とって、そしたらこういう風に分類できましたって話でしょ。そっから先は解釈なんですね。たまたま、痴呆の人と比べたら、おんなじようなパターンをしてました。そういう話ですよね。
脳波のパターンを見たら確かにそういう解釈も可能でしょう。そっから先は三段論法になっちゃうわけですよね。パターンがおんなじだから、じゃあその人が生活の中で痴呆かといったら、そりゃわからんでしょう。
――ちょっと不思議なのが、もともと、ソフトウエアを開発した人の脳波をとってみたらっていう……
泰羅 あ、そうみたいね、僕それ知らんかった。(笑)
――でもその後、その機器を使っての測定をしてるわけですよね。
泰羅 いや、この記述を見る限り、どのソフトウエアを開発した人なのかはわからないですよ。論文だったらそういうところはきちんと書きますけど、そういうものがないじゃないですか。それが、本と論文の違いというか、細かいところが書かれてないですから。
――本で出す場合は書かないですか。
泰羅 書かないですね。だって、書いたら細かくなりすぎて、誰も読まないでしょ。専門書とはまた違うところですよね、それはね。
注3:『ゲーム脳の恐怖』P143には「将棋ゲーム」についてのみの記述だったが、『ゲーム批評』11月号のインタビューによると、テレビゲーム化されていない将棋でも、「考えることが必要なくなる」と、森氏は考えているらしい。
――でも一般に、この本は科学的だと信じてしまう人が結構多いのが事実なんですが。
泰羅 それはそうやって紹介したマスコミ側の責任ですよ。そこはマスコミがちゃんと、中身を吟味するもんじゃないですか?
――森氏の手を離れて、独り歩きしたという感じなんでしょうか?
泰羅 ゲームに関する話は、完全に独り歩きしてますよね。
例えば、教育関係者の中には、ゲームを目の敵にする人は多いわけじゃないですか。この本は、格好の題材になりますよね。
しかも、新聞社とか大手のマスメディアが、ポンとお墨付きみたいなものを与えちゃってますからね。
――学生さんの中にも、この本を見て、ゲームに対する印象が変わったという話は聞かないですか?
泰羅 聞いたことないですね。
非常に常識的に考えたら、何にもせずに長時間ゲームだけやってたら体に悪いってのは、当たり前の話ですよね。ゲームやったらその分だけ、また別な遊びするなり勉強するなり、バランスがないといけないわけで、ゲームだけやってりゃそれは体に悪い。
うちの学生はそんなしょっちゅうやり続けるのはいかんっていうのは、ある程度わかってると思いますよ。
――歯止めが効くかどうかと。特に低年齢の場合は。
泰羅 そうでしょうね。
――やっぱり、年齢が低いほど影響はありますか?
泰羅 いや、わかりません。そういう研究はないでしょう。
――本の中では、「もしも、テレビゲームをやらせるというのなら、せめて中学生以降、できれば大学生になってから」と書かれてますが。(※P157)
泰羅 それはでも、いろんな意味合いがあるでしょ? ゲームってのはアディクティブな(麻薬のような習慣性が強い)ところがあるから、そればっかしやってることによって、第三者とのかかわりがなくなってしまったら、コミュニケーションがとれなくなる可能性が考えられるし、そういう面においては、ある程度制限ってのは必要になってくるでしょう。
ただ、脳に対する影響だけ議論するんじゃなくて、多方面からの研究、例えば、社会心理学な研究も必要でしょうね。
――複数の人間でゲームをやっている場合は、また変わってきますか?
泰羅 そういう研究ってないでしょう。それはゲーム業界で研究すべき対象じゃないかと。
――アメリカで、子供の集中力を測定するのに、テレビゲームを使うことがあるそうです。集中力のない子は、ゲームも15分続かないそうで(※注4)。
泰羅 あー、それはきっとADHD(注意欠陥・多動性障害)ですね。ゲームを診断のために使ったっていうことじゃないですか?
――『ゲーム脳の恐怖』では、「テレビゲームや携帯型ゲームは、集中性を高めるということが信じられてきましたが、これは誤解です」と書かれてますけど……。(※P148)
泰羅 いや、アメリカの話も、読んでないので詳しくはわからないけど、今の話からすると、「ゲームをすると集中力が高まる」と言ってるわけじゃなくって、ゲームというのはある程度集中力が必要だから、ADHDの子はそれができないよ、と言ってるんじゃないですか?(※注5)
――集中力が必要なのは確かですか?
泰羅 そりゃ、集中力がなかったらできないでしょ(笑)。できるわけないと思うけど。
――それから、「脳波で脳の動きを診断する」という方法自体への疑問も指摘されていますが(※『ゲーム批評』11月号、新清士氏の指摘)、これについては?
泰羅 脳波はもう、いちばん昔から行われている手法で、いろいろと皆知り尽くしている手法でしょうね。一般的な受け止めかたとしては、脳波っていうのはやはり、グロス(全体的)なデータですね。
でもまあ、脳波は脳波で、それなりに、重要な意味を持っているんで、全然意味がないかといったらそんなことはなくて、意味がなかったら病院で検査なんかしませんし。
注4:『やわらかな脳のつくり方』(吉成真由美/新潮社)P155より
注5:『2002CESAゲーム白書』に、テレビゲームがADHDの治療に有効であるとする研究結果が取り上げられていました(NASAラングレーリサーチセンターのアラン・ポープ博士と、ノースキャロライナ州立大学チャペルヒル校医学部のオラクル・パルソン博士による)。
私もこの記事は読んでいましたが、ADHDをPTSD(心的外傷後ストレス障害)と勘違いして覚えてしまっていたため、インタビュー中に触れられませんでした。申しわけありません。
泰羅 けっこういろんなマスコミが、この話を追っかけてるみたいですね。昨日も1社来ていましたし。
――では、これからまだまだこの本に対する議論も、マスコミでかなり……
泰羅 出るでしょうけどね。でも、所詮は本は本、っていうのがあって終わりじゃないかって気がしますけどね。
――逆に、この本を読んでない人のほうが怖いかなという気も。(※注6)
泰羅 そうでしょうね。記事だけ見ちゃってそれで「そうか」って思う人は、非常に怖いですよね。
――やっぱりこれだけマスコミに出るようになると。
泰羅 脳波にしろ、イメージングの研究にしろ、「こういうゲームをやったら、脳がどういう風に働くか」というのは、はっきりした客観的な事実が出てくるわけですね。でも、それがどういう影響を持ってるかってのはそりゃあ、また違う次元ですからね。そこに関してはやっぱり、多方面のかたの、いろんな研究が必要ですよね。
この本だって結局、読む人が「ちょっと違うんじゃないか」と思うのは、データを見たときのその人の解釈でしょう? 逆に、本に書かれてるのも森先生の解釈であって。
そうすると、この森先生のデータに関して、ディスカッションというものが、当然必要になってくるでしょうね。
注6:前出の『ゲーム批評』11月号、新清士氏の見解を参考にしました。
※泰羅教授の2009年時点での研究結果が、CESAの冊子「テレビゲームのちょっといいおはなし・6」に掲載されています。
※泰羅教授の2008年時点での見解が、CESAのインタビュー記事に掲載されています。
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